前回の寄稿では「既存テナントをうまく転用」することを主軸に実例をご紹介しました。
これをもっと抽象化すると、堅実な新規開業を考えることに辿り着きます。
堅実と言うと構えてしまいますが、類語で「こじんまり」「控えめ」「清貧」でも良いかもしれません。
よく住宅を建てる際に「3回建てなければ本当のいい家は出来ないよ」などという口伝があります。
設計者としては常に最適解を模索しますので眉唾な部分もありますが、建築した経験やライフタイルの変化に応じて変化した結果、と捉えれば合点がいく部分もあります。
実際、私自身も2度の賃貸住宅の転居を経て中古住宅を手にし、これを改修して初めて満足度を実感したものです。
これは動物病院もしかりです。
獣医師として/専門医として個性と経験を持っていても、開業医として動物病院経営者としては1年生です。
施設がどうあるべきか?という考察は、経験値つまりは勤務先や知人友人の病院などの知見以上のものは知り得る機運がありません。
ましてや日々施設整備に注視した医療提供をしている方はまず居られないでしょう。
しかし、それで良いのです。計画の際に医療に集中して居られる中での経験を暴露していただくことで、本当に必要な医療サービスのあり方が肌感覚で分かるのだと思います。
そしてそこに最善な情報を注入をできるのが、我々のような動物病院医療環境に専門的知見をもった設計者の出番であると実感しています。
なぜこのような話をしているかと言うと、新規開業でお手伝いした施設が最適解であったとしても、やがて更に良い施設案が必要となる可能性もまたあり得るのです。
もちろん我々は最善を求めますが、地域での動物医療の需要の変化、医療技術など医療環境の進歩、従業員や私生活の変化によっても、最適解が変わる可能性を秘めています。
先細りの思考で新規開業をする方は一人も居られないと思います。他方で事業拡大!商売繁盛!と大きく捉える必要もありませんが、少なくとも時代や状況に可変性のある柔軟に変化に応じられる計画をしていくことが重要と考えています。
この連載の中でも、移転を前提に小さなテナントで開業した計画、大きなテナントの中で面積を限定して開業し拡張をした計画など、時間軸での変化に応じた実例をご紹介しています。
ぜひ我々とともに未来志向な「堅実な新規開業」を計画しましょう。