素材と調理と香辛料

建築の話です。

建築計画の素材は建築士が用意するものと若い頃は片意地を張っていましたが計画の素材を常に建築士が用意していては、何れ素材は尽きます。建築計画の素材は計画敷地や敷地近隣に転がっています。さらにはクライアントの想いや要望、意識下の奥深い無意識の中に姿を隠してひっそりと潜んでいます。転がっている素材や潜んでいる素材を見つけ出すのが建築計画をする建築士の役割なのですが、身近な場所やクライアントの深層への注意を怠り、そこら辺に転がっている建築計画の素材の殆どを見逃してしまい、計画のスタートから躓いてしまう建築士が数多いるのも否めません。

敷地調査とクライアントへの初回ヒアリングは、建築計画の素材探しの肝です。敷地の法令調査と必要諸室要望を聞くだけでは、計画の素材は見つかり難いものです。特にヒアリング時は心と時間に余裕がないとクライアントの思い入れや表情の機微を見逃してしまいます。
何事にも経験は必要と思いますが、ヒアリングでは言葉以外の情報をどれだけ引き出せるか、敷地調査では近隣を含めた場所の雰囲気をどれだけ捕捉できるかが素材調達の極意です。山程の失敗と僅かな成功を糧に今日もヒアリング=素材調達に向かう日々が続きます。

素材が潤沢にあれば素材の選定に悩みます。素材が少なければ素材選定に悩むことは無く、調理方法を考え実行する段取りに入れば良いだけです。素材はいくらでもその辺に転がっていると書きましたが、転がっている素材の良し悪しは建築士の選択と判断に委ねられます。選択と判断を誤れば素材を調理し味付けを施したところでクライアントに食してもらえないのが建築図面です。調理の腕が一流でも味付けが抜群でも選択する素材を誤った段階で負ける確率が高くなります。
相手に意思を伝える方法のひとつが言葉であり、現代では意思伝達の手段としての本流になっています。話された言葉、受け取った言葉を換骨奪胎して自らの言葉に置き換え、置き換えた言葉をさらに図面に反映させる行為が平面計画です。話された言葉=素材と考えて良いでしょう。話され受け取った言葉の中から良質な素材を選定し、下処理して灰汁を抜き、素材の臭みを取り、うまみを引き出す準備をして、料理に入る段取りと平面図を仕上げる工程は同じ工程を辿ります。良い素材の選定があり、素材の下処理を手抜き無く行うエスキースを行い、料理段階では最大限の想像力を使い、隠し味には適度に香辛料を使う過程が平面図が仕上る工程と重なります。

良い平面図は見た瞬間に解かります。品良く無駄な線が無く簡潔にまとまっています。テーブルに運ばれてくる一皿が美味しそうと思うように、良い平面図は建築士には美味しそうに写っています。美味しい平面図をつくりたいと格闘する日々が唯一美味しい平面図をつくる筋道であろうと思います。

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